わたしたちは春の中で
嵯峨野の桜
昨日、遅い桜見に京都へ行って来た。
嵐山、嵯峨野を歩いて回った。土曜日ということもあってすごい人の混みようだった。
肝腎の桜はほとんど散って寂しかったが、嵐山を後にして、高台寺、清水寺にかけての行程では幾らか遅咲きのしだれ桜があって、ようやく春らしい気分を満喫した。
実は週末かみさんが来たのでそのお伴ということなのだ。
嵐山、嵯峨野なんてのはかみさんが来ないことには行くわけがない。男一人でいったところでなにもない。特に京都なんてのは一人で行くところではないに決まっている。我が身が切なく、寂しくなるばかりだ。間抜けだ。
向田邦子さんに“喪服の月旦”というのがあり、月旦とはなにかと不思議に思っていたら、なんのことはない“品定め”だった。“喪服の月旦”、つまり葬儀で集まった縁者達の喪服の容姿に対して“品定め”するのだ。厳粛な場においてでも喪服姿は気にかかるのである。
そもそも喪服とは誰が身につけても美しく映るらしい。葬儀という厳粛な場にあって、そして悲しみにくれる哀切な感情を包み込み、すべての方、とくにご婦人の喪服姿はかなり美しく映える。
「あら、お義兄さんったらいやですよ」
この台詞が頭から離れないでいる。
葬儀が終わって親戚縁者が集まって久しぶりの懇談。なあに、懇談というよりはご婦人達の喪服について、つまり今日集まった中で、誰が一番喪服が似合うかなんて話を男連中がやっているだけなのだ。酒なんか飲んで話は弾む。
トイレに立った男に対して女が廊下ですれ違いざま言った台詞がこれだ。
「あら、お義兄さんったらいやですよ」
勿論女は喪服である。男の妻の妹。
この台詞は、
「あら、お義兄さん、お先に使わせていただいて失礼しました」
なのか、あるいは、
「まあ、お義兄さんったら、女のすぐ後にだなんていやですよ」
といっているのかは不明なのだ。ただ、「あら、お義兄さんったらいやですよ」なのである。実に巧妙、妖しい。
喪服の女はいつだって妖しい。いや、喪服を着ると女は妖しくなるのか。回答は“喪服の月旦”をご覧あれ。
この巧みな言い回しのためにというか、いつまで経っても頭から離れないでいる。哀れなるかな。。。
頭を離れないといえば、“ツワ子”も同様だ。
ツワブキの花からとって“ツワ子”。
ツワブキがいつ頃の花かは解らないが、向田さんの小説に出てくるご婦人の名だ。
ツワブキの花の季節に生まれたので、ツワブキのツワ、“ツワ子”といいます。
こんな感じで主人公の“ツワ子”さんは言うけど、実はツワブキのツワから取ったのではなく、母親の悪阻(ツワリ)がひどく、ええいっとばかりに命名されたのがツワリからくるところの“ツワ子”だったのだ。
別に妖しくはないけど、この“ツワ子”も相当の間頭から離れないでいるのだ。
この“ツワ子”が小説でどんな役回りであったかは今では記憶にない。
ただ、向田さんの小説に出てくる女だから相当強かというか・・・。今度、再読でもしてみよう。
さて、嵯峨野である。
喪服姿の女は流石にいるわけはないが、綺麗な女子は沢山いました。
それにしても今の女子達のファッションセンスはいい。なんか見ているだけで春なのだ。
観ているともいう。これはさしずめ月旦だな。“婦女子の月旦”。年齢の相当離れておいでの妖しい、いや怪しいカップルもいました。チクショウ。(^^; 春の嵐、いやちがう、春の嵯峨野は魑魅魍魎。維新の怨念。なんか訳が解らない。
気を取られているとかみさんが言った。
「なにを見ているの? 」
「・・・・」
「おかしなひとね」
「うむ、遅咲きの梅があるよ、ほらあそこ」
「そんなに大きな声で言わなくても・・・」
完全に窮してしまった。確かに遅咲きの梅はあるにはあったのだが・・・。
雑踏の町中を歩く。嵐山に来るとかならず寄ることにしている“老松”に着く。
ショウケースにこの時期のお薦め菓子が。
“夏柑糖”。夏みかんらしきものの身をくりぬいて、柑橘ゼリーを流し込んでいる菓子のようだ。
それをかみさんが購入している。まだ春だというのに“夏柑糖”か。。。
それにしても、ここにもそれと解るような怪しきカップルが。うむ、・・・。
春。桜。夏柑糖。怪しき二人連れ。どうにでもするがいい。
懲りずに“月旦”は続いているのである。
♪ああ、春はあやまちのみなもと
♪私たちは春のために
♪失ったものを怯えている
これは中島みゆき、『私たちは春の中で』からの引用です。
さすが中島みゆきだ、解ってる。春は勝手に向田邦子に中島みゆき。
“春はあけぼの”とのんびりしていてはいけないのだ。
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